再履ウム

再履、留年、そして退学。

初めてコーラを飲んだ日

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管理あるある:コカ・コーラ飲めない

まああるあるだと思うんですけど、僕は歯が溶けるからと親にコーラを禁止されていました。最近でこそあまり聞かなくなりましたが、一昔前は流行りの言説でしたね。保健室の前のポスターに、コーラを漬けた歯が溶けていく写真が載っていたのを覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。同じように、コーラ以外の炭酸や甘いお菓子もたいていは飲み食いさせてもらえませんでした。

 

さて、ある日の朝です。僕は近所の同級生と一緒に小学校に登校していました。特段仲が良いというわけでも無いですし、いま彼がどこで何をしているのかは当然知りません。一緒に学校に行くだけの仲です。そんな彼の家は両親が若干ネグレクト気味。僕が朝インタホン越しにおーいと声をかけると、ようやく自分でバタバタと用意を始めて、なんとか学校に間に合うということを繰り返していました。お母さんとお父さんは早々と家を出てしまうそうです。しかし、その日はたまたま準備が早く終わりました。そこで、彼の家で少し休んでから、学校に行くことになります。

しばらく椅子に座らせてもらっていると、彼が飲み物をお盆に載せて持ってきてくれました。グラスは透明で、中には茶色の液体。「お茶?」と聞くと、彼は笑いながら「アイスティーだよ」と。……なんだか様子は違いますが、よしんばアイスティーでなくても、コーヒーや麦茶だと思いました。出されたものを断るのも失礼でしょう、と思い、そのまま頂きました。

 

一口。

かすかにとろみのある甘口。温室で大事に育てられた舌を刺激する炭酸。

 

その日が、初めてコーラを飲んだ日になりました。

 

彼に嘘をつかれたということはわかりました。嘘というより、冗談でしょうか。ところが困ったことに、コーラを飲んだことがないので、この飲み物の名前がわからないのです。何度聞いても彼は答えてくれませんでした。

 

しかし、学校まで歩いている最中に、あれはコーラだったのでは…という疑念が膨らみはじめます。茶色の炭酸飲料だということは知っているからです。いよいよ確信に迫ると、親に禁止されていた飲み物を飲んでしまった罪悪感に襲われました。まるでドラッグを禁止するかのように強い口調で飲まないように言われていましたから、すさまじい罪悪感でした。学校に行く前に飲んでしまったことも、拍車をかけました。結局その日は、言葉にできない胸のつっかかりを感じながら過ごしました。そうです、この手の話にありがちな、背徳感のある楽しい体験ではなかったのです。親に言えない、暗く、重い秘密を抱えてしまいました。

 

彼はきっと、僕が親にコーラを禁止されていることなど知らなかったでしょう。ただ自分の好きなものを出せば僕も喜ぶだろうと親切に考えてコーラを出してくれたのだと思います。そして、彼はこの日のことを覚えているはずもありませんよね。それでも、時折コーラを手にすると、あのときのことをあれこれと思い起こしたり、10年も前に縁の切れた彼がいまどうしているか、ふと考えてみたりするのです。

 

(おしまい)

 

おまけ

それからのことですが、結局中学校に上がるまでコーラを飲むことはありませんでした。中学に上がると電車通学に部活とはじまって、親から離れる時間が増えたので、飲む機会も当然増えました。ところが、何度思い出してみても、中学に上がって初めてコーラを飲んだときのことは一切覚えていません。

 

(おしまい)