再履ウム

再履、留年、そして退学。

ハンガリー語と僕の180日間

Jó napot kivanok! 

2019年に、半年間だけ勉強したハンガリー語についてお話しします。

はじめに

大学1年生のときに、ハンガリー語を半年間だけ履修していました。特に理由はなく、履修の都合が良かっただけですが…大変面白かったのです。1500万人が話すハンガリー語は決してマイナーではありませんが、大学生にしては中々貴重な体験だったと思います。ここにその楽しい学習の思い出を、残しておきたいと思います。

 

さて注意ですが、ほとんどが僕の主観で書かれています。言語にお詳しい方もひょっとすると御覧になるでしょうが、感想を書いているだけだということをわかっていただきたいです。不正確だったり、意見の分かれていたりする記述には極力注意しているつもりですが、問題があれば出来る限り直していきます。

ハンガリーって

ここら辺の能書きはウィキペディアに任せるべきでしょうが、少し授業で知ったことを軸に紹介します。ハンガリーは東欧にある国で、平原が広がり、気候も穏やかで美しい国です。音楽が盛んで、授業の一環で来日していたハンガリーの合唱団の方々の演奏を見ることもできました。案外、日本人の想像する「西欧的」なヨーロッパがそこにあるかもしれません。先生曰く、全体的に物価が安く、野菜や発酵食品をたっぷりと使った料理が多いということで、日本人のお腹も大変よく満たしてくれる国だそうです。ただし、旧共産圏らしく英語があまり通じないということで、観光業はまだまだのようです。あとは、医学部再受験の最後の切り札として、東欧医学部で有名なペーチ大学などがあることも、一部の方々はご存じでしょうか。

美しいブダペストhttps://diamond.jp/articles/-/293557

挨拶ができない

さて、ハンガリー語の文字はラテン文字で、アルファベットに似ています。いくつか特別な文字もありますが、まだいけます。おっ、とっつきやすいぞ…と思ったのですが、発音から挫折しました。例えば、sz[s]は濁らずに「ス」と発音しますが、s[ʃ]は「シュ」と硬く発音します。z [z] [s]はdzと濁らず、「サ」と「ザ」の中間を攻めますよ。最後まで出来るようになりませんでした。ということで言語あるあるですが、基本的な会話の用語のSziastok!*1から発音に苦労するわけです。ただ、練習すれば行けるタイプです。マジでこれどうやって発音するんだよ…っていう理不尽な感じではないです。ちなみに挨拶は、相手の人数によって変わります。シチュエーションによって挨拶の仕方が変わる言語は多かれど、挨拶する人数で変わる言語はちょっと珍しいかもしれません。

たゆたう歴史に魅せられて

ハンガリーの方々は、大部分がマジャル人です。さてこのマジャル人、起源はあまりはっきりとはしないそうですが、ウラル山脈の南部の遊牧民族というのが現代では主流*2のようです。今のハンガリーの場所と比べると、中々に開きがありますね。アゾフ海黒海ヴォルガ川南岸を経て、いまのハンガリー平原に落ち着きました。いわば移住と移民の歴史であり、いまのハンガリー人は大変多くの民族との混血を経て構成されています。*3さて、これは、ハンガリー語の文法と語彙に色濃く出ているように思われました。

日本人に格変化は無理なのよ

まず、文型はSVOなのですが、これがめちゃくちゃ例外が多いんですよね…さらに日本人が面食らいがちな格変化が無限にあるんですよね…名詞だけで20種類あります。さらに、冠詞が3種類あって、単数と複数で少なくとも6パターン。ですから、名詞と組み合わせると…という恐ろしい言語です。東京外大の先生は「日本人に勉強しやすい」とおっしゃっていたのですが、んなわけあるか!!めっちゃむずかったです。3年経ちました。何も覚えてません。

ミックス語彙

語彙が結構面白かったです。イタリア語と、ルーマニア語、あと地理的にスラヴ諸語の影響も強いとは聞きますが、中々ですよ。

たとえば、ハンガリー語でレストランはétterem(エッタラーム)といいます。

英語はrestaurant、イタリア語ristorante、ロシア語ресторанということでこの辺はまあいけますね。

では、本はどうでしょう。ハンガリー語könyv(クニィフ)と言います。一瞬面食らいますが、ロシア語ではкнигаなので近いです。本にまつわる言葉で面白いのが、図書館のことをハンガリー語ではkönyvtár(クニィフタ―ㇽ)といいます。おっ、さっきと似ていますね。ところが、ロシア語ではбиблиотека(ビブリアチェーカ)と言います。図書館になると開きが出るのです。これは、ロシアでは聖書、そう、バイブルから来ているので、図書館は普通の本の集まりではないのです。ハンガリーでは家にある本棚や書斎も、図書館も変わらず本の集まりを「könyvtár」としているのですね。中々面白いところです。

次に、音楽が盛んですから、楽器はどうでしょう。英語では(music)instrument, イタリア語ではstrumenti musicali, ロシア語もинструментと来ます。中々近いではありませんか。ハンガリー語hangszerです。一体どこから来たのでしょう。ちなみに(大きな)ピアノはzongoraと言います。ええ、あなたもどこから。歌う、はénekelと大変に独特な単語が並びます。一方で、乗る、はvontarといって、ゲルマン系に近いのです。

 

ちなみに国名も結構謎で、日本はjapánでベタなのですが、中国はkínaiです。ロシア語はКитайだし、カラ=キタイから来てるのかな~ってまだ理解は出来るのですが、ポーランドlengye、ドイツに至ってはnémetです。え、どこから来たん…?

 

さて、勉強していくうちに気付いたのですが、動作はこの語族に近くて、外来語はここから来ていて…というのがあまりないのですね。言語をよく勉強されている方は当たり前だと思うのでしょうが、僕は結構意外でした。というのも、基本的な動作にかかわる単語は生まれたウラルの方の言葉に近くて、近代的な名詞にはドイツ語やイタリア、フランス語から来ているのかな~なんて漫然と考えていたからです。まあ、僕の浅はかさが、半年間でもすぐわかったということで、大変勉強になりました。

ハンガリー語は「なごむ」

ハンガリー語の一番いいところは、音が優しいのです!

たとえば先生は「よくできました」という意味で、"Jól van!"(ホールヴァーン)や"Nagyon jol!"(ナージョンヨーゥ)と褒めてくれるのですが、音がすごく好きなんですよね。この誉め言葉に限らず、「硬い」音もありながら、柔らかい音が全体的に多くて、比較的音節数が少ないので何とも聞き心地が良いのです。大変直観的で申し訳ないのですが、素敵な音を持つ言語だと思います。時折今でもふと、ハンガリー語の音を思い出します。現地のニュースや映画なども見てみましたが、やはりなんとなく「なごむ」雰囲気の音がします。言語に詳しい方、是非この雰囲気を、言葉にしてください。

あと、ハンガリー語は先に上げて、しりすぼみになるような発声をします。疑問文でも同じなのですよ。ですから、なんとなく、日本人からすると取っつきやすいです。なにか聞かれても、最後に調子が上がらないから、威圧的な感じがしない。優しい気持ちに、なんとなくなります。

おわりに

さて、こんな調子で半年間ハンガリー語を勉強しましたが、結構面白かったです。不思議な語彙と複雑な文法、一方でとてもやわらかな響きの発音。美しい音楽に、いつかは味わってみたい素晴らしいワインや料理の数々。

勿論、半年間で会話が出来るようになったり、本やニュースがわかったりするようになるということはありません。ただ、ハンガリーという日本から遠く離れた国の魅力、しかもインターネットにあまり出てこないような言語や文化について、少しでも触れることが出来たのは、高等教育の素晴らしいところかなと感じました。いつか行ってみたい!そう感じさせる素晴らしい授業でした。

 

最後に、ご親切かつ丁寧に指導して下さった大阪大学言語文化研究科の岡本真理先生に、心から感謝申し上げます。(おわり)

*1:こんにちは、という意味です。

*2:ちょっとセンシティブな話題だと思うので、この辺にしておきます。

*3:閑話休題。この歴史の受け入れ方が難しいらしく、いまのハンガリーの政権は、親ロシア派でナショナリストとされるオルバン首相が務めています。